「補助金で買った機械、もう使わないから売ろう」が命取りになる
補助金で設備を導入した事業者から、半年後にこんな相談を受けることがある。「あの機械、思ったより使わなくて。中古で売れませんか?」
答えは「勝手に売ったら補助金を返すことになります」。
これは脅しではない。補助金で取得した財産には処分制限という法的な縛りがある。知らずに売却して、後から数百万円の返還請求が来たケースは実際にある。
処分制限とは何か
補助金で取得した設備・建物・ソフトウェア等は、一定期間にわたり勝手に処分してはいけない。ここで言う「処分」とは:
- 売却: (中古市場に出す、下取りに出す)
- 廃棄: (スクラップにする、捨てる)
- 目的外使用: (補助事業と違う用途に使う)
- 他社への貸出・リース
- 担保提供: (銀行融資の担保にする)
これらを事前承認なしにやると、補助金の全額または一部の返還を求められる。
処分制限期間はどれくらいか
処分制限期間は法定耐用年数に準じる。つまり税務上の減価償却期間と同じ。
| 取得財産 | 処分制限期間の目安 |
|---|---|
| 機械装置(工作機械・製造設備) | 7〜12年 |
| 車両 | 4〜6年 |
| 建物・内装 | 15〜30年 |
| ソフトウェア | 3〜5年 |
| 器具備品(PC・計測器等) | 4〜8年 |
例えばものづくり補助金で1,000万円のCNCマシンを導入した場合、法定耐用年数が10年なら10年間は勝手に売れない。
実際にあったトラブル事例
事例1: 設備を売却して返還請求
製造業A社。ものづくり補助金で750万円の設備を導入。2年後に業態転換し、その設備が不要になった。「もう使わないから」と中古業者に200万円で売却。
3年後の会計検査で発覚。補助金750万円のうち、残存簿価に応じた約500万円の返還を求められた。
事例2: 補助対象スペースを転用
小規模持続化補助金で店舗の内装改修を行ったB社。翌年、売上不振で店舗の半分を知人に又貸し。「空いてるスペースを有効活用しただけ」と思っていたが、目的外使用として補助金返還の対象に。
事例3: 担保提供で発覚
IT導入補助金で導入したシステムのサーバー機器を、銀行融資の担保に提供したC社。銀行側の担保評価の過程で「補助金取得資産」であることが判明し、担保提供の取消し+補助金事務局への報告という事態に。
どうしても処分したい場合の正しい手順
処分が絶対にできないわけではない。事前に「財産処分承認申請」を提出し、承認を得ることで合法的に処分できる。
手順
- 補助金の事務局に連絡し、財産処分承認申請書を入手
- 処分の理由、処分方法、残存簿価を記載して提出
- 事務局の審査(通常2-4週間)
- 承認が下りたら処分を実行
- 残存簿価に応じた補助金の一部を返還
返還額の目安
例: 1,000万円の補助金で取得した設備(耐用年数10年)を5年後に処分する場合
- 残存簿価: 約500万円(定額法の場合)
- 返還額: 500万円 x 補助率(1/2の場合250万円、2/3の場合333万円)
全額返還ではなく、残存簿価に応じた按分。ただしこれでも数百万円の出費になる。
設備投資前に考えるべきこと
1. 「5年後もこの設備を使っているか?」
技術進歩が速い分野(IT、AIなど)では、3年後に陳腐化するリスクがある。処分制限期間中に「もう使えない」設備を抱え続けるのは経営リスク。
2. 補助金で買うべきか、自費で買うべきか
処分の自由度を考えると、頻繁に入れ替える設備は自費、長期使用する設備は補助金という使い分けも合理的。
3. リース契約の場合
補助金でリース料を補助された場合も処分制限は適用される。リース期間中の中途解約が「処分」に該当することがあるため、リース契約書の条件を事前に確認しておくこと。
処分制限は「知らなかった」では済まない。補助金の交付決定通知書に必ず記載されている。申請前にこのルールを理解した上で、設備投資計画を立てることが重要。